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Channel: みんなの笑顔が三重(みえ)てくる Jima-t’s diary
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JR名松線 三重県最奥の“神去村”へと続く秘境路線

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Ep.210

JR名松線

三重県が誇る最高の秘境路線として知られる。

 

JR名松線 観光三重より

 

松阪駅から伊勢奥津駅(津市美杉町)までの43.5km、15駅を結ぶ。

名松(めいしょう)とは張(なばり)と阪のこと。1920年代当時は両市を繋ぐ計画だったとのことだが結局は実現せず。名張の手前の美杉町までの開通となり現在に至る。

 

それ以前の構想段階では奈良県井市まで繋げて「桜松(おうしょう)線」を目指していたというから驚きだ。(桜と松。ネーミングはなんて秀逸だろう)

この辺りの地理に明るい人ならピンと来るが、三重県から西進して奈良県に向かうとなると険しい山々がそびえ立つ。

技術的にもコスト的にもハードルは高かったことだろう。

 

現在、三重県から奈良県側へ抜ける鉄道路線は、

関西線伊賀市京都府木津川市奈良市と、

近鉄大阪線松阪市桜井市

の2つがある。

旧・桜松線の構想は後者ができたことにより消滅することとなった。

 

観光三重より

 

名松線の何が秘境なのかというと、「観光三重」のサイトによると

「季節折々の風景と風光明媚な景色を楽しめる」

ところにあるらしい。

地図を見ると、名松線はこの地域が誇る清流、雲出(くもず)川の上流に沿い、圧倒的山奥に向かって走っていることが分かる。どうやらこれがポイントのようだ。

 

3月下旬、名松線に乗って終点の伊勢奥津駅を目指す小トリップへでかけた。

 

松阪駅より名松線へ乗り込む

 

古都・松阪の中心である松阪駅Ep.184参照)から名松線に乗る。

駅を出た後、一路西へ。

田んぼ、畑、山。

道中、小規模な集落は確認できるが「街」も「町」も一度も見られない。

 

 

家城(いえき)駅に到着。

電車を乗り換えてさらに山へ。

目指すは津市美杉町。

Ep.94で記した通り、私が以前訪れ、深く感銘を受けた地域だ。

 

ミツマタ

 

車窓を見ながら、私は美杉町をモデルにしたある小説作品を思い出していた。

三浦しをん著『神去なあなあ日常』(2009年)と、その続編『神去なあなあ夜話』(2012年)である。

 

神去なあなあ日常』(2009年) 徳間書店

 

横浜出身、高校を出たばかりのヘタレ青年・平野勇気が就職のため仕事内容を知らされないまま神去(かむさり)村にやって来て、ここで林業(山仕事)に従事することになり…という物語だ。

 

自然への畏怖・敬意、伝統・しきたり、林業に従事する者の姿、地方と都市の関係、過疎地で生活するということ。

 

圧倒的におもしろいエンタメ作品となっている。

(なぜか角幡唯介氏(Ep.56参照)あとがきを書いていて、それもいい!)

 

作品の多くが映像化され、直木賞本屋大賞も受賞している現代最高の売れっ子小説家、三浦しをん氏。

私は彼女の作品をいくつか読んでいるが、この神去シリーズ2作品が最高傑作であることに間違いない。(というか正直に言うと他の作品で面白いと思った試しがない)

 

三浦しをん氏 小説丸 より

 

後編は短編形式の後日談になっているが、この作品もいい。

なかでも『神去村の事故、遭難』の章は、過去に登場人物の両親たち・村人たちに起こったある悲劇について。

死と恐怖を描いているのに平静で、冷静で、客観的で、澄み切っていて、夜空は美しい。

筆舌に尽くし難い凄惨な事実と登場人物の内面に自然の描写が絡まる。

それは鳥肌モノであり、この章が当該シリーズの最高到達点を成している。

もし私が直木賞選考委員だったら(それも変な話だが)この章だけで直木賞に推すだろうな、と思う。(なお三浦しをん氏は既に『まほろ駅前多田便利軒』(2006年)で直木賞を獲っている)

 

伊勢奥津駅

 

終点、伊勢奥津(いせおきつ)駅に到着。

以前はクルマで訪れたため、この辺りは来なかった。

圧倒的な“林間感”、人里離れた感、それはここでも健在である。

 

「街」からも「町」からも遠い。

そういえば『神去〜』の中にも

名張のスナックに行く」とか、

「久居(ひさい。津市。Ep.209参照)までクルマで出てから電車に乗る」

といった記述が出てくる。

 

このような地名や地理、土地勘は三重の人でないと分からないだろうな、とほほ笑むと同時に、確かにこれは津市美杉町を舞台にした作品なのだな、と分かる。

 

ところでなぜ三浦しをん氏は津市美杉町をモデルにしたのだろうか?

 

実は同氏は幼少時代、この町に暮していたのだ。

 

三浦佑之氏 朝日新聞デジタルより

 

というのも、日本文学者で『古事記』の研究などで知られる千葉大学名誉教授のお父さんの三浦佑之(すけゆき)氏は津市出身なのだ(!?)

本居宣長の系譜を継いでいるじゃないか! Ep.206参照)

 

私はとても感心したことがある。”オコゼの干物”についての描写である。

 

『神去〜』では、村人である山根のじいさんが「オコゼ」の干物を大切にしていて、常に肌身離さず身につけている。

実はこれ、実際に尾鷲市(おわせ。美杉町からは離れているが三重県南部の街)に、

「懐からオコゼをのぞかせて大笑いする奇祭“山の神祭り”」

というものがある、ことを読後に偶然、新聞で知って驚いた。中日新聞2024/02/08)

この祭りは、山の神が「こんなに醜いのは魚ではない」と笑い飛ばした伝承を基にしたものらしい。

 

民俗学にも精通しているだろう父・佑之氏から着想をもたらされたのだろうか?

“小ネタ”一つとってもそこからは郷土・三重の薫りが立ち昇ってくる。

『神去〜』は、三浦しをん氏にとっても自身と縁のある土地に想いをはせた特別な作品なのかもしれない。

 

オコゼ 和食の扉より

尾鷲市矢浜岡崎町の山の神祭り 中日新聞2024/02/08より

 

2014年には『WOOD JOB! 神去なあなあ日常』として映画化された。

映画もまた、とても面白いから脱帽である。

そして本作のロケ地も美杉町なのだ。

 

『WOOD JOB! 〜神去なあなあ日常〜』(2014年)

津市美杉ふるさと資料館にて

映画のクライマックスで描かれる祭りは「牛蒡(ごんぼ)祭」として美杉町に実在する

 

主人公のユウキに染谷将太、ヒロインのナオキに長澤まさみ、山仕事の天才・ヨキに伊東英明、その妻が優香。

主要キャスト4人の芝居と人物造形は最高!

 

中でも長澤まさみ演じるナオキは原作と映画で最も設定が異なるのだが、私は先に映画を観たせいか、むしろ映画のナオキの人物造形の方がしっくりくる。

 

劇中、ユウキが想いをよせるナオキに尋ねるシーンがある。

「ナオキさん、なんで結婚しないんですか?」と。

 

“田舎に暮らす美人な女性”は若くして結婚する、という先入観が都会出身の彼にはあったのだろう。

するとナオキ(長澤まさみ)が言う。

「あんたが思うほど簡単じゃないんよ、田舎で結婚するっていうんは」

 

深い.. と思わず唸った。このセリフを聞いたとき。

 

ミツマタのおはぎ

 

JR名松線

それは三重県随一の“秘境”に向かう路線であるとともに、『神去〜』の登場人物たち、彼らを演じた俳優たちに想いを走らせるものだった。

 

 

 

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JR Meisho Line  Road to “the Innermost Village of Mie”

Ep.210

JR Meisho Line in not a just local train.  From Matsusaka station, 43.5km, 90 min riding is along beautiful Kumozu river to deep mountainous area Ise-Okitsu station, Misugi-cho, Tsu city (Ep.94).

 

Rice field, River, Forest, Trees and Leaves.. the innermost village around mountain might be an almost “Hidden Land”.

 

https://www.kankomie.or.jp/report/919

https://www.kankomie.or.jp/special/filmcommission/file/eiga-bungaku.pdf

https://www.chunichi.co.jp/article/850526?rct=mie

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A5%9E%E5%8E%BB%E3%81%AA%E3%81%82%E3%81%AA%E3%81%82%E6%97%A5%E5%B8%B8

 


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